東京高等裁判所 昭和47年(う)2667号 判決
被告人 大崎精一
〔抄 録〕
そこで検討するに、原審の取調べた証拠中、直接に被告人の酩酊の程度を数字的に示す客観的証拠としては、司法警察員作成のアルコール保有量捜査報告書(呼気一リットルにつき〇・五ミリグラム以上の飲酒量を検知した旨の記載のあるもの。検知管付き)があるが、しかし記録によれば、被告人は本件事故発生後にも本件当夜日本酒およびジンライムを飲酒している(その量は被告人の昭和四六年七月六日付司法警察員調書、原審第五回公判における供述ならびに原審証人早川七三子の公判証言によれば、日本酒一合瓶二本位とジンライム二、三杯ないし四、五杯と認められる。)ものであって(当審検察官も、被告人が本件事故発生後も検知までの間に飲酒していた事実のあったことを認めているのである。)、右捜査報告書の作成警察官である鈴木正昭の原審公判証言によれば、同警察官が前橋警察署において被告人に対してアルコールの身体保有量についての検知をなしたのは、本件事故発生後三時間余を経た昭和四六年七月三日午前〇時四〇分ころであり、また同警察官が右検知の際、被告人の身体等の状態を観察した結果を前記捜査報告書に記載したものであることが認められるので、右捜査報告書は、本件事故発生後に被告人が再び飲酒した後で測定された被告人のアルコール保有量および被告人の身体衣服等の状態の観察結果が記載されたものであって、右報告書は本件事故当時における被告人の身体に保有していた飲酒量および外見的観察を認定する証拠としては適切でなく、また原審証人小林きよ子および藤井陸子の各公判証言ならびに被告人の原審公判供述によれば、被告人は本件事故当夜の午後八時ころから午後九時すぎころまでの約一時間余の間に飲食店「篠」において、一級清酒を銚子(約八勺入ったもの)にて四本位すなわち約三合二勺を飲酒しているもので、被告人は同店を出る際小林きよ子に対して酔ったようだと述べたことはあったが、その顔色は変ったところがなかったことならびに被告人は酒に強くその平素の酒量は四合位で、最大酒量は一升近いことなどが認められ、これらの事実によれば、被告人は本件事故当時酒気を帯びていたことは相違ないとしても、道路交通法にいわゆる「酒に酔った」状態にあったとは必ずしも認められない。しかも前記捜査報告書の作成の経緯に徴し、かつ右各原審証人および被告人の各供述を参酌すれば、被告人が本件事故当時呼気一リットル中少くとも〇・二五ミリグラム以上のアルコールを身体に保有する状態にあったとも必ずしも認められず、従って、被告人が当時、道路交通法の処罰する酒気帯び運転をしていたとも認めることができない。その他、被告人が本件事故当時、前記「酒に酔った」状態ないし右一定量以上のアルコールを保有していたことを肯認させるに足る証拠は、記録上発見できない。従って本件公訴事実中被告人が酒酔い運転をしたとの点(第二の二)については、犯罪の証明が十分でないというべきである。
(石田一 菅間 柳原)